第3回第11話「バンコクの男」の188ページ目に、「バンコクの男」の顔が初お目見えする。最初の読書でも、これはオッチョだなと思った。そろそろ出番だろうという予測もあったのだけれど、なにせ眉毛が可愛い。彼の少年時代の面影を色濃く、そして唯一かもしれないが、残している。
単行本「20世紀少年」は、それぞれの巻頭において、主に前号までの展開を踏まえて、「登場少年紹介」という見開き2ページの人物紹介欄がある。万丈目なんかも出てくるので、「登場少年」というのも妙だが、ともあれ、第1巻と第2巻および第4巻の当該欄でオッチョは、「ケンヂたちのグループのリーダー」として紹介されている。
確かに、第4巻辺りまでの彼らの少年時代は、主に秘密基地と「よげんの書」の経緯に関する描写がほとんどであり、オッチョは秘密基地の命名者、ともだちマークの考案者、「よげんの書」の中心的な脚本家だったのだから、その点においては確かにリーダー的存在ではある。
しばし、雑談。誰だったか忘れたが、ある財界の成功者の弁によれば、組織の長に必要な能力は大別して二つあり、一つは管理能力(management)で、もう一つは統率力、指導力の「leadership」であるとのことであった。
かつて、土木が専門の或る地方公務員の先輩に、事業とは四つの管理が必要であり、すなわち、安全管理、予算管理、品質管理、工程管理(締切り)と教わったことがある。ただし、彼によれば四者は並列・同等ではなく、安全管理が最重要であり、残りの三つは第二グループとして同列にある。
この安全とは、一義的には工事関係者の安全であるが、もちろん、最終的には利用者や周辺住民も含まれる。どこかの電力会社は知っていたのだろうか。
また、上記は事業としての管理であるから、他方で個人ベースの(つまり、マネージャーによる)管理には、部下の健康管理や、労組対応も含む労働者の労務管理なども含まれる。
これらの管理は、会社内で共通のルールがあるのが一般的であるから、ある程度は定型的な指導や経験、すなわちマニュアル的に上達し得る。
他方でリーダーシップとは、上記のような概念的な定義が難しいが(少なくとも私には)、積極的な行動力、明るい性格、面倒見の良さ、といったあたりは、日本の組織で重要な要素であろう。性格的なものの影響も大きい。循環気質、メランコリー親和型。
元帥山本五十六の、「やってみせ、いってきかせて、させてみて、ほめてやらねば ひとはうごかじ」の世界です。閑話休題。
オッチョは、そういうタイプのリーダーではない。ある心理学者によれば(こちらも名前を忘れた)、「青少年の発育段階において、精神年齢の発達の差は、肉体年齢のそれよりも更に大きい」そうで、確かにオッチョは同年齢の子供たちより大人びているし、勉強もできそうだし、そういう理由によるものであろう、学級委員にも選ばれている。
しかし、彼は子供のころも大人になってからも、独立独歩型のマイ・ペース人間であり、優秀であるがゆえに尊敬されるが、あまりお誕生会には呼んでもらえないタイプである。
行動力と面倒見のよさという点では、やはりリーダーはケンヂであろう。このことは、物語が秘密基地や「よげんの書」から少しずつ離れながら広がりをみせる後半、少年時代の様々なエピソードが紹介されてゆくにつれて、次第に明らかになっていくことになる。オッチョのようなクールな少年でも、グループに引きつけておくだけの吸引力の持ち主なのだ。
ただし、ケンヂは仲間にも恵まれたが、他方で、偏屈なクラスメートたちから、知らず知らずのうちに敵愾心を持たれるようになってしまったようだ。損な役回りのような、あるいは、なるべくしてなったような、ともあれ、これからしばらくはオッチョに付き合おう。登場場面からして派手なこと、この上なし。
(この稿おわり)
なぜかマンションの通路天井にとまって鳴いているツクツクボウシ。
(2011年8月31日)