おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

遠藤家の火災     (20世紀少年 第99回)

 第3巻第9話「運命の子」は、ともだち一派の若者集団がケンヂのコンビニを襲って、カンナを連れ去ろうとする場面です。赤ん坊の略奪は失敗し、誘拐団は店に火を付けて逃走、コンビニと遠藤さん宅は全焼してしまう。

 前回も触れたように、この集団はいかにも頼りない感じで、そもそもリーダー役の若い男からして、「僕には大役すぎる。うまくいくかなあ...。」と不安げであり、他の男から「大丈夫だよ、何かあったら僕がついてる。僕ら、友達じゃないか。」などど励まされている。


 そのリーダーいわく、今日は特別な日で、我々の行動には人類の未来が懸っているというから大変だ。人類の未来を救う「運命の子」は悪魔に幽閉されているので、このままでは「悪魔の子」になってしまうから、ともだちの元へ取り戻しましょうという計画である。

 その割には、この程度の指導者、計画のなさ、実行力の欠如、撤退時の惨めさ等々、とてもではないが、人類の未来を懸けた作戦とは思えん。結局、首脳部の考えとしては、以前、書いたようにケンヂの敵対行動を封ずるための放火が第一の目的ではなかろうか。そうでなければ、リーダーがマッチを、誰かが灯油などを持ち歩いているはずもない。


 カンナを守ったのは、お母ちゃん、バイトのエリカさん、それから、お母ちゃん(チエさんと言うのだねえ)に羽田空港の爆破事件を告げにきたご近所のおばちゃん(マルオと似ている)の奮戦であり、加えて、おそらく絶妙のタイミングにわざと泣いたに違いないカンナの知恵であった。

 そして、酒の看板で入口の硝子戸を破られ、落城寸前の危ういところに、ようやく成田から駆け付けたケンヂが到着、運命の子カンナの「だー!」、「がるるるる」と唸りながら肩を怒らせるブルー・スリー号、「言っとくけど、この犬は凶暴だよ!」と仁王立ちのユキジ(彼女のほうが凶暴にも見えるが...)。

 
 ここでテロ集団はあっさり「失敗だ」宣言をして、リーダーはあろうことか、先ほど自分を激励してくれた「友達」に灯油をかけさせ火を放ち、店ごと焼いてしまうのだから人非人と呼ぶべし。

 この夜を最後に、多額の借金を残したまま店を失ったらしいケンヂ、お母ちゃん、カンナの3名は二度と故郷の街に帰ることなく、最初はユキジの実家、続いて地下に潜伏という波乱の日々を送らざるを得なくなる。


 その数日後だろうか、172ページではヨシツネとマルオに、ケンヂのこれまでの体験を話して聞かせるユキジが出て来る。ユキジ、綺麗になったな。ここで読者は、彼女が幼い時に事故で両親を亡くしていたことを知る。

 彼女は途方に暮れるマルオとヨシツネを、遠藤一家をかくまっている自分の実家、すなわち、おじいちゃんと暮らしていた元・接骨院の空き家に案内するのだが、ケンヂは「その時が来たら連絡する」という書置きを残したまま姿をくらましてしまっていた。何があったのかは、以下次号。



(この稿おわり)


東京にも接骨院はあるだろうかと思って探したら、近所だけで4軒もあってびっくり。
その中で最も華やかな看板。(2011年8月18日撮影)