おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

タクシーに乗った王子様     (20世紀少年 第97回)

 クラス会で酔いつぶれたヨシツネを送って行ったマルオは、ようやく自宅に戻り寝付いたところで、「サダキヨ探し」に来たケンヂに急襲されて起こされてしまう。ケンヂの昔のアルバムは、お母ちゃんに捨てられてしまったのだ。

 卒業写真には、5年生で転校したサダキヨが映っていない。遠足などの写真には、ラーメンや握り飯を食べている幸せそうなマルオなら映っているが、サダキヨは見つからない。

 しかし、だんだんとケンヂの脳裏にも、かつての記憶がよみがえってくる。サダキヨはナショナル・キッドのお面をつけて走っている。教室の隅にいる。校舎の裏でいじめられている。学校の屋上で、宇宙人との交信を図っている。


 続いてケンヂが思い出したのは、夏の秘密基地の光景であった。細菌に続く「悪の組織」による攻撃は、爆弾テロと決まった。その標的に何を選ぶか。マルオ案は東京タワー、ヨシツネ案は新幹線だが、オッチョ案は「キイイイン。”飛びます、飛びます”」だった。

 オッチョ少年のこのギャグは、最初の読書では意味不明で読み飛ばしてしまったのだが、2回目の読書でようやく分かった。その間に、坂上ニ郎さんが亡くなったからである。私はドリフターズの大ファンで、他方、なぜかコント55号は今一つ、夢中になれなかった。彼らの芸を小さな子が楽しむのは無理だったかもしれない。さすが、オッチョは成長が速い。


 オッチョ案が採択されて、爆破されるのは飛行場と決まった(昔は、空港というより、飛行場と呼んだものだ)。ケンヂはマルオを突き飛ばして、「ユキジが危ない!!」と叫びながら外に出る。タクシーをとめて、成田空港へと向かった。

 この場面は、最初に読んだとき、さすがの私も「空港は成田じゃなくて羽田だろう」と思った。成田の新国際空港が稼働し始めたのは、私が大学生のときである。それまで国際空港は羽田だけだったのだ。

 でも、ここでケンヂが助けなければならないのは、空港施設ではない。正義の味方ケンヂが救出する対象は、身近で大切な人が優先されなければならない。あいにく白馬がそこらにいないので、やむなく乗ったのはタクシーであったが、ともあれ王子様は再びユキジを救うため、悪の組織との戦いの場に臨む。


(この稿おわり)



羽田や成田の写真がないので、代わりに夕暮れの那覇空港
(2011年7月17日撮影)