おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

フクベエのカミさんの話     (20世紀少年 第93回)

 刑事コロンボ役で名をはせた俳優、ピーター・フォークが先日、亡くなった。ここに改めて、お悔やみ申し上げます。あのシリーズは何十作も観た。母方の祖母もファンで、理由は「犯人が最初から分かっているから、分かりやすい」とのことだった。ミステリの手法としては倒叙方式と呼ばれる。

 刑事コロンボの作品群は玉石混交だった。私が好きだったのは「白鳥の歌」という初期のもので、犯人の歌手を演じたジョニー・キャッシュも先年、亡くなった。その伝記が映画化されて、これも良い作品だった。ウィザースプーンがチャーミングだったな。


 私はコロンボ警部の勤務先であるLAPD(ロサンゼルス市警)に3回ほどスピード違反で捕まり、とうとう最後のときは裁判所に呼び出されたが、警察も馬鹿らしくなったのか不起訴になった。市警でのコロンボさんの肩書は「ルーテナント」であるが、これは「副」の意味を含むので、日本風に言えば警部補だと中学生のころ聞いた。

 レンブラントの「夜警」をアムステルダムで観たことがあるが(圧倒的な作品です)。あの絵の正式名は、警備役の隊長と副隊長の名前であり、副隊長の職名が「ルーテナント」になっていたのを覚えている。


 刑事コロンボの口癖に、「うちのかみさん」というのがあった。正確には、声優・小池朝雄の口癖と呼んだ方がよいほど見事な吹き替えでした。私の世代の男は、だいたい自分の妻のことを「女房」か「かみさん」と呼ぶ。ところが10年ほど前からか、「僕の奥さん」と言う男が増えてきた。こういうのには、あまり近づかないようにしている。

 第3巻の95ページで、フクベエは「ウチのカミさん」と語り始めているから、コロンボ式である。しかしその内容たるや、「変なカルト宗教みたいなのにハマっちゃってさ」というものだったから、ケンヂは鋭く反応している。彼の嫌な予感は当たって、そのカルトみたいなものの代表者は”ともだち”というのだとフクベエが言う。


 考えてみれば、彼の「カミさん」とは実際にはキリコであり、「変なカルト宗教みたいなのにハマっちゃってさ」というのは、客観的にみれば(キリコはハマったのではなく、ハメられたと言うべきだろうが)、その点に限れば、まんざら大嘘ではない。

 しかし全体的に作り話だったことが後で判明するのだが、この時点のケンヂにそれが分かるはずがない。何せ、フクベエの口から、ともだちの言っていることが「おまえとオッチョがガキの頃、作った話にそっくり」などと聞かされては、平静でいられるはずがない。以下、次号に続きます。



(この稿おわり)



隣町の飯屋の名前。カミさんよりは良いか...。
(2011年8月18日撮影)