おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

忍者ハットリくんのお面     (20世紀少年 第84回)

 ようやく登場した”ともだち”は、ケンヂに「顔、見せろ。正体は、誰だ」と言われて、照明の中に進み出るのだが、忍者ハットリくんのお面をかぶっていたため、ケンヂは怒り心頭に発し、「何、ふざけたお面なんかつけてんだ このヤロー」と叫んでいる。

 今回は、しばしこの二人の会話から離れて、ともだちと「忍者ハットリくんのお面」について検討いたします。意外と珍しいことなのだ。ともだちがハットリくんのお面を選ぶのは。


 これまで(第1巻から第3巻の途中まで)に登場するともだちは、暗くてよく顔が見えない場面が多いが、どうやら素顔のままのようだ。

 2001年以降のともだちは、ほぼ全ての場面において、例の一つ眼の不気味な「ともだちマスク」(覆面レスラーみないなやつ)で顔と頭を覆っている。

 全てかどうか、これについては全部、読み直すのも大変なので、とりあえず覚えている限りにおいて、あれこれ思い出そうとしてみたが、例外は皆無ではないか。他方で、子供のころの場面に出て来るお面は、ほとんどがナショナルキッドである。


 忍者ハットリくんの出番は、数えたほうが早い。巻の順番でいけば、最初がこのケンヂとの対決場面。中野サンプラザのともだちコンサート。

 次に、このコンサート会場から放り出されたケンヂが突如、思い出す少年時代の光景。「ケンヂ君、遊ぼうよ」と言う少年がつけていたお面がハットリ君。その次は、同級会の場面で、フクベエがサダキヨの名を出したとき、ケンヂは同じくハットリくんのお面姿で走る少年を、サダキヨとして思い出している。


 その次がややこしい。第8巻で、小泉幸子がバーチャル・アトラクションに送り込まれた際、いきなりスカートのすそを引っ張って「遊ぼ」と言う子供もハットリくん。これも誰だかわからないが、ランニングシャツを着ているのに注目。このころランニング姿で出歩いているのは、ケンヂとマルオだけだと思う。

 続いて第9巻、同じくバーチャルの世界で、ナショナルキッドのお面をつけているサダキヨを連れて、屋上に上がったコイズミが出会ったハットリくんのお面の少年。これは、何と中身は大人の顔をしたサダキヨ。かなりの虚構が入り込んでいる。


 現実の世界に戻ったコイズミは、第10巻でサダキヨ先生が館長を務める「ともだち博物館」に連れて行かれる。かつての、ともだちの家を復元したのだという、その部屋の壁にハットリくんのお面が、明らかに他と比べて特別扱いに飾られている。

 それを眺めてるコイズミのところに、サダキヨ先生が、ハットリくんのお面をかぶって出てきてこう言う。「僕がともだちだと思うかい」。お面は二つあるらしい。


 次は血のおおみそかタイムズ・スクエアのビルで、フクベエが拳銃を構えているところにケンヂが駆けつけるシーン。ハットリくんのお面をかぶった者が、巨大ロボットのリモコンらしきものを操作している。

 この男と一緒にビルから墜落したはずのフクベエが、直後に偽の太陽の塔に乗っかって、巨大ロボットを爆破しようとするケンヂと対峙するが、このときはフクベエがハットリくんのお面を付けているはずだ(素顔が描かれていないが、ケンヂの発言と怒りようから推測できます)。


 第12巻の終章、呼び出された山根と、この日、集会があることを探り当てたオッチョたちが待つ夜の理科室に、ともだちが現れる場面で、彼はハットリ君のお面をつけており、あげくに山根に射殺され、オッチョにフクベエであることを確認されてしまう。


 最後は、万丈目の回想のような雰囲気で描かれている第18巻の第10話。時代は1980年、万丈目の事務所にやってきたハットリ(これは忍者ではなくて、本物の服部フクベエ)がサークル活動を提案する場面が出て来る。

 若きフクベエは、ハットリくんと、ナショナルキッドと、ともだちマスクの三つのお面を並べて、その中からハットリくんを取り上げ、「僕はこれが良いと思うんだ」と万丈目に語っている。


 少年時代にしろ、”ともだち”になって以降にしろ、結局、そのお面を外す場面が続かない限り(それはそれで何か所かあるが)、もちろん誰がかぶっているのかは分からない。

 しかし、以上の忍者ハットリくんのお面の出番を並べてみてみると、最初のころのケンヂによる少年時代の回想、および、コイズミとサダキヨによるアトラクションがらみの混乱を除くと、一つの共通点がある。


 忍者ハットリくんのお面をつけるのは、服部すなわちフクベエだけ(あるいは彼を装ったものも含めるべきか)である。第12巻でフクベエが死んで以降、すなわち2015年以後のともだちは、忍者ハットリくんを選んでいない。

 それから、もう一つ。結果的にそうなっただけかもしれないが、ハットリ君は、20世紀少年たち(およびコイズミ)との関連でしか出てこない。



 冒頭に戻って、ともだちコンサートでの「初顔合わせ」において、忍者ハットリくんのお面を選んで降りてきた”ともだち”が、「久しぶりだね、ケンヂ君、僕だよ」と語っているのは、フクベエがお面の名を借りて、服部だと自己紹介していると考えてよかろう。だが、またも彼は気付いてもらえない...。

 ケンヂは(やむをえないと思うけれど)、驚くやら怒るやらで、服部君という同級生がいたなんてことまで頭が働かず、さらに驚愕の真相を知らされて、すっかり混乱してしまうことになる。ちょっと先走りました。ともだちとケンヂの応答に戻ろう。


(この稿おわり)


沖縄の釣果、モンガラカワハギ。毒を持ち食用に向かないが、観賞魚として高く売れるそうだ。
(2011年7月14日)