おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

決意とラーメン     (20世紀少年 第80回)

 第3巻第2話の「決意」は、徹夜のギタープレイで目の下に隈をこしらえたケンヂの、「地球を救うのか。この俺が。」という独白で始まる。部屋の床に、子供のころのマルオが缶に入れたチキン・ラーメンが転がっているが、その次のページで大人になったマルオが食べているのは何ラーメンであろうか。

 20世紀の日本において、子供や若者の外食の楽しみといえば、断然、ラーメンであった。まだ、牛丼店もハンバーガー・ショップもない時代である。寿司やてんぷらや鰻丼は高い。そして、他所は知らず、わが故郷の静岡市において、外で食べる街のラーメンといえば、しょうゆラーメンであった。


 マルオと息子のアッちゃんが2杯のラーメンを平らげながら、しゃべっている相手はケンヂである。ケンヂはまず仲間を得ようとした。最初に選んだのは、秘密基地のメンバーでおそらく一番、近所に住んでいるマルオだったが、余りにのどかで楽しげにラーメンを食べるマルオ親子を見て、ケンヂは道連れにするのを早くも断念していまう。

 この漫画は、このあと何回も、いろんな人物同士、ときには異色の組み合わせで、ラーメンを食べるシーンが登場するのだが、その嚆矢がこのケンヂとマルオ父子であった。早くもここで、マルオのラーメン好きと、仲間を犠牲にしたくないというケンヂの性向が見てとれる。


 次のアポはヨシツネなのだが、どうやら営業職のサラリーマンをしているらしい彼は、仕事の失敗で駐車場に座り込み落ち込んでいる。トナーの発注数の「4」を「千」と間違えて、大量注文したらしい。20世紀とはいえ、電気器具の部品の注文に漢数字は使わないと思うが...。

 死にたいとか宗教に入りたいとか、こんなことだから嫁さんが子供連れて出て行ったままなんだと嘆くヨシツネを、ケンヂはどうやら励ましているつもりらしい。ヨシツネも励まされているらしい。友達はこうでなくてはな。それに、マルオもヨシツネも行き違いにはなったが、やっぱり心配して後日、ケンヂの店に来てくれたのだから。


 取り急ぎケンヂは両名に「地球を一緒に救おう」と声をかける気になれず、行動の計画を単独調査に切り替えた模様。まずはお茶ノ水工科大学に再度、乗り込む。もうコンビニのユニフォームを着てはいない。カンナも置いてきた。

 季節はもう秋、格子縞の長袖のジャケットを羽織っている。マサオは相変わらず行方不明だったが、それどころではないものが見つかる。ともだちコンサートのポスターであった。



(この稿おわり)

昭和は良かったという中高年は、平成の世をこんなにしたのが自分たちだという自覚に欠けている。
まあ、ラーメンの味くらいは良いけれど...。(2011年7月30日撮影)