いきなり、全く面識のない人間から「地球を救え」と頼まれて死なれたら、誰だって困るだろう。自宅に戻ったケンヂも、「俺は関係ない」とつぶやくのだが、売り物の新聞を開くと、はたして「ロンドンにも謎の病原体」というニュース。先日、出土した箱をのぞけば、「レザーぢゅう」とロボットの絵にケンヂの署名。関係なくない。
ケンヂは死んだ男に手渡されたドンキーの手紙を読む。危険な状況にあるので殴り書きを許せ、と書いている。おそらく学校であわてて書いて、それを持ったまま屋上から突き落とされた後で、遺体から男が抜いたのだろう。
ドンキーは、最初、ともだちの正体はおまえだと思っていたと書いている。のちにフクベエにまで、そう言われている。ケンヂを除き、みな「よげんの書」を書いたのがケンヂだと覚えているのだから、まず当然の発想だろう。ケンヂを見張ったこともあるという。
だが、毎日コンビニで子供を背負って働く彼の姿をみて、ケンヂではないとの結論を出したそうだ。人間、やっぱり一所懸命働くべきなのだ。誰かが見ていてくれる。
ドンキーがコンビニを除いているシーンでは、ケンヂの背中のカンナが、興味深そうにドンキーを眺めている。この二人は十数年後にバーチャル・リアリティーの中で劇的な再会を果たすが、まだまだ先の話。
ドンキーはどもだちが誰なのか、まだ知らない。だが、仲間の誰かに違いないと述べている。事態は切迫しており、ともだちは本当に世界を滅ぼそうとしている、おまえしかいない、地球を救え、という一連の文章は、死んだ男が同じことを言っているから、やはり彼はこの手紙を読んで改心したのだ。
ドンキーの手紙で一番印象的なのは、「俺たちは誓った。あの旗の下に。俺たちが地球を救うと。」という部分です。あの旗はドンキーが作ったものだ。その旗の下で、地球を救うと代表で宣言したのはケンヂである。その旗は、いま30年の時を経てケンヂの部屋の箱の中にある。
少年時代、ドンキーはケンヂを助けているし、ケンヂもドンキーを助けている。そんな奴が殺されて、「昔からの俺の友達だ」という手紙をもらって、泣かない者がおろうか。「おまえしかいない」と頼られて、「地球を救え」という檄文を受け取って、決起しない者がおろうか。
神様の夢は真夢であった。ケンヂは立ち上がることを決意する。ついては、無敵の武器が必要であり、それは中3のときに姉が買ってくれた、今も押入れの中にある2万6千円のギター。
ところで、ともだちの正体まで探り当てたチョーさんが殺されたのと比べて、ドンキーはまだ誰なのか知らないのに殺害されている。知られた際の危険度も、ベテラン刑事と高校の先生では格段の差があるのに、ドンキーに対するこの厳しい処置はどうしたことか。
この問題は、もしかすると山根が後に語るように、ドンキーが理科室の夜に見たものに関わりがあるのかもしれない。それでも、今なぜ? 理由は不明だが、結果的にケンヂの闘争心と責任感に火を付けたことになったし、実行犯にも裏切られているのだから、ともだちの失策だな。
(この稿おわり)
沖縄のサトウキビ畑。夏の日差しの中で。(2011年7月16日撮影)