瀕死の逃亡者がドンキーを学校の屋上から突き落とす回想シーンでは、下手人の後ろに田村マサオの姿が見える。この野郎は、ドンキーの高校時代の教え子である。しかも、自分の行方を捜しに来てくれた恩師なのに、平然とその殺害場面を見物しているのだ。
恩師の墓参りだけは忘れるなと、伊集院静氏は「大人の流儀」で語っておられる。ところが、個人的な恨みもないのに恩師を殺す奴までいるのだな。未来永劫、地獄の業火で焼かれて苦しむに違いない。最期に空飛ぶ円盤を一枚落としたくらいで、天に功徳を積んだなどと思われては困る。
逃亡してきた男は、ドンキーの最後の叫びを伝えている。「目をさませ。おまえ達は、だまされているんだ。ともだちは救世主なんかじゃない。ともだちが言ってることは、全部、ケンヂが子供のころ考えたことだ」。優秀で行動力のある男たちが、深入りしすぎて何人も死んだ。チョーさん、ドンキー、モンちゃん。
この物語が始まって以来、ケンヂが初めて涙を見せ、初めて暴力を振るおうとして押しとどめられている。ドンキーは鼻水タオルで救ってくれた恩人だ。自転車で大阪万博を目指した勇者だ。みんなの旗を作ってくれた。
その男も死ぬときが来た。「死ぬ寸前の人間が、嘘をいうだろうか」というのが、男がドンキーを信じた根拠だった。今その男自身が死ぬ寸前になって語る言葉も嘘ではあるまい。警察には行くな、警察にはすでに仲間が入っていると述べ、ドンキーの最後の手紙だと言って封書をケンヂに手渡した。
そして、最後にとんでもない依頼事を託す。「お前しかいない。地球を救え」。
男は死んで、第3巻に移り、ホームレスたちに水葬に付される。ケンヂは神様に「どうする」と問い詰められるのだが、返事ができすに走り去ってしまった。「逃げちゃったよ。おっかないよな、やっぱり」とホームレスには同情されているのだが、神様はすでに予知夢で何やら見ているらしい。
「うだつの上がらない兄ちゃん」は「俺にどうしろっていうんだ」と叫びながら自宅への夜道を走っていく。夜も更けたか、背中のカンナはぐっすり眠っている。いずれ大変な目に遭うのだから、今は寝かしといてあげよう。
(この稿おわり)
この地球を守る男。(2011年7月16日撮影。沖縄。)