おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

いいだろ? 世界征服     (20世紀少年 第76回)

 ケンヂに「その”ともだち”って一体、誰なんだ?」と聞かれた逃亡者は、「おまえは、ともだちを知っている。おまえば全部知っているはずだ。全部お前が考えたんだろう。」と語る。

 続いて、「全部お前が子供のころ考えた筋書きなんだろ。」と断言しているが、これは、ともだちがそう言っていたかどうかは分からないが、やはり、ドンキーの最期の言葉を聞き、また、第3巻に出てくるドンキーの最後の手紙にそう書いているのを、男が読んだからと考えるのが自然です。


 続くケンジの回想シーンは1969年の夏、5年生の秘密基地。「悪の組織」は何を企むのかという議論が行われており、冒頭、「皆殺しだろ?」という声の主は、そのあとの展開からしてオッチョだろう。「みんな殺してどうするわけ?」という質問に、オッチョが「そりゃやっぱり世界征服だろ?」答えているのが描かれている。

 さらに、悪の組織の攻撃方法については、マルオが水爆を提案しているのだが、オッチョは、それでは街が壊れてしまうという不思議な理由で却下して、山根君直伝の細菌兵器を提案している。破壊力はないが不気味な攻め口である。「アンドロメダ病原体」を思い出すな。

 
 続いて攻撃対象の場所選びに入り、最初から日本では話が続かないということで、外国にしようということになり、ケンヂが選んだのが喫茶さんふらんしすこと、スナックロンドンであった。これを彼が思い出したことにより、瀕死の男も、ケンヂが当事者であることに納得した。さらに、レーザー銃で決定的になる。

 私はサンフランシスコに2年ほど仕事で住んだ。パリに次いで観光客の多い都市として知られる。美しいだけではなく静かで気候も治安も比較的良く、住みやすい土地だった。借りた一戸建てのすぐ裏にゴルフ場があって、鹿の群れが歩いていたものだ。湾岸戦争のころである。

 ロンドンは旅行で数日、滞在した。物価、特に食べ物が高いということ以外は、いい思い出ばかりである。大英博物館で丸一日すごした贅沢。シャーロック・ホームズのオフィス跡も見てきたし、アビー・ロードの横断歩道も渡ってきた。この両都市を細菌で汚すとは、筒井康隆の表現を借りれば、言語道断、横断歩道であろう。


 この時点で、ケンヂはまだ、ともだちはオッチョではないかと疑っている。ともだちマークを考え出したのが彼だし、ともに「よげんの書」を作った仲間のうち、思い出せる範囲で連絡が取れていないのがオッチョだけだから当然である。

 しかし、逃亡者は”ともだち”の本名を知らないため、ここでは解決しない。それに、男の話はとんでもない方向に進んで行った。彼が、ともだちに対する疑惑を持ち始めたきっかけが語られたのだ。木戸三郎、すなわち、ドンキーを突き落としたというのである。急展開だ。


(この稿おわり)


情熱の真っ赤な薔薇を。(2011年8月9日撮影)