おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

長髪の優男     (20世紀少年 第72回)

 今回は単なる、あらすじの解説のようなものです。先に進みたいので、気分が悪くなる話題はさっさと片付ける。

 第2巻では、諸星さんは誰かの左手で背中を押されて線路に転落する。その直後に一人の若者が左手をポケットに突っ込みながら駅の階段を下りて来る描写がある。まあ、どう見ても容疑者だ。


 この作品には、ともだち関係者として、実に嫌な感じの人間が大勢、登場するのだが、この若い男ほど不愉快な印象を与える者もおるまい。最後まで実名が分からないので、ここでは「長髪の優男」にしておこう。

 優男(やさおとこ)とは、広辞苑によると、風流を解するという男という良い意味と、柔弱な男という悪い意味の両方があるが、ここではもちろん後者。

 
 長髪の優男は、早くも2001年には国連から表彰されるほどの友民党の幹部になっているのだが、それまでの主な功績(ともだちにとって)は次のとおりであろう。

 1) 諸星さんを殺して、キリコ誘惑の邪魔者を消した。
 2) 敷島教授の娘をかどわかして、仲間に引き入れた。教授も云いなりになった。
 3) ともだちがキリコを口説き落とすためのマニュアルを作った。


 1)が上記の駅での場面で、2)はその次に出てくる。3)がそのまた次に出てきて、万丈目が1)の成功を評価し、また、3)のマニュアルを受け取っている。このあと、ともだちがそれに従って、キリコと会う場面が第19巻に出て来るのだが、先走り過ぎるのも何なので、ここではこの辺りでやめておこう。


 先年のベストセラー「日本辺境論」の中で、内田樹さんは丸山眞男山本七平の文章を引用しつつ、明確な戦争理念に従って大戦争と大殺戮をやらかしたナチスと、「空気」だけで戦争をしてしまったらしい帝国陸海軍やトップの政治家の意思決定振りを対比させているが、ともだち一派は典型的な後者であろう。

 万丈目も長髪の優男も、人殺しを何とも思わない悪人であるが、巨悪というには余りにも情けない末路をたどる小悪党に過ぎない。

 ともだちは、こういう連中をある種の「雰囲気」で集めて、雰囲気で悪さをさせているのだが、空気が読めないという表現が他者を批判する言葉として愛用されている現代においては、さもありなんの集団なのだ。

 さて、次回でもう一度、キリコとケンヂの小学校時代の話題に触れてから、物語の次の展開に進もう。


(この稿おわり)


人間、やはり正直親切でなくてはいけない。書は高村光太郎
(2011年7月30日撮影)