おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

ボウフラ考     (20世紀少年 第63回)

 通算すれば私も東京で20年以上は暮らしたと思うが、都内でボウフラを見たことがない。たまには蚊に刺されることもあるから、どこかにはいるのだろうが。

 生まれ育った昔の静岡では、至ることろにボウフラがいた。ふわふわした虫なので、淀んだ水に住む。ちょっとした水たまり程度の水があれば、しっかり育って、あの憎むべき蚊となる。


 かつて住んでいたカンボジアはモンスーン気候で、おおむね一年の半分が雨季、残り半分が乾季となる。乾季では井戸や川が近くにあれば良いが、ないところでは大きな壺や、自宅の周囲に穴を掘るなどして水をためておく。さっそくボウフラが湧く。

 恐怖のマラリア熱を媒介するハマダラ蚊は、贅沢にも清い水でないと生きていけないらしい。しかし、デング熱の蚊は、汚れた水でも平気だそうだ。このため首都プノンペンでも流行することがある。同地で3回過ごした雨季のうち、ある年、デング熱が大流行した。

 この病気は大のおとなでも、高熱や筋肉痛で一週間ほど寝込んでしまう。知り合いも何人か苦しんだ。体力のない幼児は死に至ることも珍しくなく、その年の報道では、プノンペンだけで(地方の情報は無いのだ)200人以上の子供が命を落とした。


 駆除するにあたり、飛んでいる蚊を叩き潰して回るのは至難の技である。北杜夫さんご指摘のとおり、戦艦大和でさえ空軍には勝てなかったのだ。このため、孵化する前にボウフラや、サナギのオニボウフラを退治する戦法をとる。連中が生息している水の中に化学薬品を撒いて殲滅する。

 この年のプノンペン市でのデング熱撲滅運動に、私は一役買って出て、今でもそのことを自慢に思っている。だが、実は組織に対してルール違反を犯している上に、同僚を巻き込んでいるので詳細は書きたいけれど書きません。残念無念。やはり正義は正々堂々となされるべきであった。


 キリコは確かにボウフラが可愛いとは言ってはいる。しかし、第2巻で彼女が読んでいる本は微生物の本であり、机の上に残されているのは顕微鏡であり、後に第20巻でサダキヨに見せているのも微生物の本である。

 キリコの部屋で、ケンヂは背中のカンナに向かって、「おまえのママは、本当は大学でボウフラの研究でもしたかったのかもしれないな」と声をかけているが、ボウフラは微生物ではない。

 ケンヂはキリコがアフリカの大学に行ったことを知らないのかもしれない。それに、殺人ウィルスと比べれば、ボウフラのほうがはるかに可愛いものであった。


(この稿おわり)



都内でボウフラの写真は撮れないが、ミンミンゼミなら身近です。
(2011年7月30日撮影 上野公園にて)

























































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