おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

サンセット大通り     (20世紀少年 第62回)

 今回は脱線します。最近は脱線ばっかりだが。もう何十年も前に観たアメリカの映画に、「サンセット大通り」という作品がある。主演女優はグロリア・スワンソン、男優はウィリアム・ホールデン

 監督はビリー・ワイルダー。この人の監督作品は、私が観たものだけでも「麗しのサブリナ」、「アパートの鍵貸します」、「お熱いのがお好き」、「昼下がりの情事」と並べてみると、当時のハリウッドの美男美女、芸達者が勢ぞろいといった観がある。


 サンセット大通りは、ロサンゼルス市に実在する。東西に走る幹線道路であり、英語名は「Sunset Boulevard」。ビリー・ジョエルの佳曲、「さよならハリウッド」の歌詞にもその名が出て来る。

 1980年代の後半、私はこのサンセット大通りの東側の端っこ(内陸の方)に住んでいた。週末、この通りを東から西へ、海に向かってドライブするのが当時の楽しみの一つだった。カーステレオで、ビリー・ジョエルボブ・ディランイーグルスをかける。


 道路は最初のうち、ゴタゴタしたLAの街中を走り、ハリウッドを抜けて、ビバリーヒルズを走り、UCLAの前を通って、西海岸特有の海沿いの高級住宅街に入る。時間帯によっては、このあたりでサンセットのタイミングを迎える。

 1時間半か2時間ぐらいかかって、最後に、風光明媚という点では米国でも屈指であろう、パシフィック・コースト・ハイウェイ(PCH)にぶつかる。目の前に太平洋が広がり、水平線の向こうには日本があるはずだ。帰路はサンタモニカから、フリーウェイを使って戻る。LAは夜景が美しい。


 映画「サンセット大通り」は、終幕に近い場面から始まるという不思議な構成になっており、しかも、主役格のウィリアム・ホールデンが死体となってプールに浮いたままの姿で、とうとう俺も死んでしまったというようなボヤキで始まるという洒落た演出であった。

 漫画「20世紀少年」は、第2巻第7話の「姉貴の引き出し」において、「俺は3回、死にかけたことがある」という、ケンヂの独白から始まり、次のコマで「そのうち2回が川に落ちたときだ」という台詞付きで、ケンヂが川に沈んでゆく。

 
 続いて彼は、「陸上動物の人間が、水の中で泳ぐなんて土台、おかしな話で」と語っているが、多くの陸上動物は水泳の授業も受けることなく器用に泳ぐし、それに、海女さんやダイバーを除き、ほとんどの人間は「水の中」を泳ぐほど上手くなく、水面を泳いでいるだけだ。

 水中を泳ぐためには、水圧や抵抗、息苦しさなどと戦いながらになるので、簡単なことではない。実際、タイかどこかで師に水中に突き落とされたり、海ほたるから脱出を図る際に、オッチョが水中で大変な苦労をしている。ケンヂが「死にかけた」のは、彼が泳げなかったからに過ぎない。


 それほど恥ずかしいことでもない。「明日に向かって撃て!」でロバート・レッドフォードが演じたサンダンス・キッドも、「ザ・オード・オブ・ザ・リングズ」に出て来るサム・ギャムジーも泳げなかった。でも泳げる誰かと仲が良ければ、彼ら同様、助けてもらえるものだ。

 ケンヂは2回とも、姉のキリコに助けてもらったらしい。「死ぬー」と泣いている弟に対して、キリコは「あんな浅いところで、死ぬわけないでしょ」と叱っているが、これは泳げて助ける立場にいる人間の論理であり、幼子は30センチ程度の風呂でも溺死することがある。顔が水につかってパニックになり、大量の水を飲みこんでしまうからだろう。


 お母ちゃんは、また川に落ちたのかい、と怒っているので、これはケンヂの第2回目の水難事故であろう。続いて、キリコまで「ケンヂを川に連れていくなって、いっただろ」とトバッチリを受けているから、初回の事故は姉が弟を川に連れて行った際の出来事らしい。

 キリコは、なぜ川に来たのかと、ケンヂを着替えさせながら咎めているのだが、ケンヂの説明によれば、姉ちゃんが何かを観ていたから、覗きにいったのだという。

 キリコがながめていたのは、「ボウフラ」であった。「かわいいんだ。川の中でウニョウニョって。」ということらしい。少女としては極めて珍しい趣味の持ち主と言わねばならない。これが彼女の人生を波乱万丈のものにする。ここでは、とりあえずは風邪で1週間、寝込んだ程度で済んだが。



(この稿おわり)


睡蓮。夏の街かどを彩る。(2011年7月30日撮影)












































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