おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

神様の登場     (20世紀少年 第60回)

 ホームレスたちから「神様」と崇め奉られている初老の男が、第2回の第6話に登場する。第2巻の巻名は「予言者」であるが、これはいろんな意味に取れるタイトルだ。

 例えば、第2巻の最後、死に行く男の話の中で、真偽のほどはともかくとして、”ともだち”とケンヂの両方が「予言者」という言われ方をしている箇所があるし、この神様もそう呼ばれるにふさわしい力の持ち主である。


 神様の登場の仕方もそれ相応のものだ。95ページ目で”ともだち”が自分の夢は世界征服だと宣言したあとで、続きの絵には、血のおおみそかの巨大ロボットと、例の鉄仮面が描かれるのだが、それは”ともだち”の発言場面を引きずりつつ、実は神様が見た夢なのであった。

 彼はこの夢に叩き起されて、仲間のホームレスたちから同情されている。起きぬけに早速、「HAWAII」と書かれた帽子をかぶっている。


 この神様は超人的な能力を、2種類、持っている。一つは、この種の予知夢である。ただし、本人も「俺は神様じゃない」と事あるごとに言っているように、彼は全知全能ではない。全て予知できるわけでもなければ、完全に正しいわけでもない。

 例えば、この第6話の最初と最後に出て来る同じ内容の夢では、巨大ロボットのイメージはぴったり正確であるが、夢のお告げであるらしい「2000年12月、人類は滅亡する」というのは、恐れとしてはあったかもしれないが、実現はしなかった。


 もう一つの能力は、目覚めている間であっても赤の他人のことが何故か、いろいろ分かってしまうという力である。こちらの方は、段々と登場回数が減ってゆくのであるが、第2巻ではホームレスの浜さんに暴力をふるったガキ共の個人情報やプライバシーを次々と言い当てて退散させている。

 後に105ページ目で、ケンヂとカンナに初めて会ったときも、ケンヂには「あんた、そのうち大変な目にあうぞ」と語り、カンナには「この坊やは、たいしたもんだ」と言って、カンナをいたく喜ばせている。さすが超能力者同士、お互い一目ぼれの様子ですな。


 この物語において、神様はいろんな場面に登場しては、予知夢で誰かを助けたり脅かしたり、民間人初の宇宙旅行に出かけたり、逃亡者をかくまってやったり、ヴァーチャル・リアリティーの中で、とんでもない過去が露呈したりと、なかなかの名脇役振りを発揮するのだが、最大の功績は「スポンサー役」だと思っている。

 この点については、推測にすぎないが重要です。同じく予知夢を見ることがあるカンナは、初対面ながら、赤ん坊ながら、この男も地球を救う仲間であることを直感したからこそ興奮していたに違いない。しかし、このスポンサーの件は、長くなるので後ほど詳しく書きます。


 神様も、後にだんだん齢をとってきてからは、予知夢も「あまり見なくなった」というような発言が目立つようになる。しかし、それでも平和な世界が戻ってきたなら充分だ。

 1997年からともだち暦3年までの間、彼の見る夢は恐ろしさのあまり、叫び声を挙げながら目覚めてしまうような悪夢ばかりだったのだ。それでも仲間を思いやって、黙っている。

 起きているうちに良い夢を見るようになったから、寝ているうちに悪い夢を見ないようになったのだろう。良い夢というのは、すでに初登場のこの巻で明らかになっている彼のボーリングに対する情熱の昇華である。

 失敗を重ね、ホームレス暮らしをしながら、苦労して待った甲斐はあったのだ。さすがの彼も第2巻では、ボーリングの女神が現れることを予知していない様子である。あともう少し、2014年まで待つだけだ。小泉響子との邂逅は。



(この稿おわり)



夏はやっぱり朝顔。  (2011年7月30日撮影)















































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