おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

本格科学冒険漫画     (20世紀少年 第45回)

 このブログは、第1回で書いたとおり基本的には漫画の「20世紀少年」の感想文なのだが、今日は少し映画についても触れたい。

 最近、DVDで「20世紀少年」と「告白」を観た後で、映画の批評や感想についてのネットの書き込みを読んでいたとき、両作品に共通の批判があり、私はそれに違和感を覚えた。

 すなわち、「感情移入できなかった」という複数の意見があったのである。これを書き込んだ方々は、おそらく映画を観る前に漫画や小説を読んでいると思うのだが、その際に感情移入したのだろうか。


 もちろん感情移入は、芸術作品を味わうに際して、しばしば起こるものだし、特に悲劇の場合は、これなくしてカタルシスを得るのは困難だろう。

 だが、「20世紀少年」や「告白」のようなタイプの娯楽作品(と私は考えている)に対してまで、感情移入させろと求める気にはならない。そんな期待は全くしない。次々と人が殺されるような内容の作品に、いちいち感情移入していては身が持たないです。


 単行本「20世紀少年」のカバーや表紙などには、「本格科学冒険漫画」と書かれている。純文学でもなければ、悲劇の舞台でもない。私も登場人物の何人かを好きだと書いてきたし、これからもそうするはずだが、彼らの言動に爽快さや懐かしさを覚えているだけであって、一身一体となって心を震わせている訳ではない。

 娯楽作品は痛快であったり愉快であったりすればよく、登場人物が自分と同じような経験や感情を持つ必要はない。むしろ、ヒーロー、ヒロインの活躍ぶりを楽しむためには、彼らがあまりに自分と同じような人間であるのは、語弊があるかもしれないが、邪魔なことであると思う。


 漫画の「20世紀少年」についての批判的意見には、「伏線が回収されていない」というのが多かったように思う(今は他者の感想を読むのを控えているので、連載終了当時のサイトで読んだ記憶による)。伏線を回収するという日本語も私は好きではないが、ともあれ、謎は謎のまま残されたのが気に入らない読者が多かったらしい。

 しかし、この物語は「科学冒険」漫画だ。映画のジャンルでいえば、SFとアドベンチャーである。空想科学小説も冒険物語も、私は子供のころから初老の今に至るまで大好きなのだが、謎は謎のままで放置されて当然の世界である。

 なぜ、ソラリスの海はあのような意地悪をするのか、どうして、ガリバーは行く先々で妙な人々や馬々と会うのか等々、そんな謎解きは不要であり、解決を期待して読んでも、がっかりすることは始めから分かっている。それでも楽しめるのがファンというものなのだから。


 もちろん、私自身がこのブログで時々、謎解きに挑戦しているように、この作品にはミステリーの側面がある。だが、ミステリーが主題ではないのも明らかであり、最後に灰色の脳細胞の持ち主が出てきて、全てを解説してくれるというものではない。

 連載時の読者がエンディングに不満に感じたのは充分、理解できる。私も「おや?」と思ったものだ。だが、それだけをもってして、損をしたとか、嫌な終わり方だったなどとと切り捨ててしまっては、これほどの作品の受け止め方としては、きわめて残念ではなかろうか。もったいないと思うのです。


 私は特にSFが好きで、ハヤカワ文庫の水色の背表紙だけでも、実家の書架に100冊以上、今でも並んでいる。しかし、今やSFは至って不振であり、かなり大きな本屋に行っても、私の蔵書以上にSFが並んでいることは滅多にない。しかも新作は少なくて古典ばかりだ。

 一方で、言うまでも無いがミステリーは大人気で、本屋では店頭に平積みされているし、次々と映画化されるし、多くの雑誌で今年のミステリー・ベスト10なんていうアンケートを毎年やっている。

 今の娯楽小説・映画のファンは、怪しげなものが怪しげなままで終わるより、全て解決する方が嬉しいのだろうか(批判しているのではないです。好みの問題に過ぎません)。


 最後に、確かに「冒険」とは書いてあるが、「科学」をもって「SF」(サイエンスのフィクション)とするのはおかしいという批判があるかもしれない。だが、この物語は、ドンキーが使う「科学的」という言葉の意味においては、すなわち、合理的、論理的に説明可能で納得し得るという意味では、科学的ではない。

 これについては、詳しく語る必要もなく、どう考えても、カンナと神様はいわゆる超能力者であり、非科学的と呼ぶ他ない能力を持っていることを疑いようがない。ミステリーは超能力者が出てきたら台無しだが、この物語はそうではないのだ。

 どうも、今日は文章表現がきついので、いくら好みの問題とお断りしても、これを読んでご不快な思いをされた方がいらっしゃるとしたら深くお詫び申し上げます。物語に戻ろう。ユキジと万丈目が待っている。


(この稿おわり)


お口直しに、美味しいクルマエビの料理はいかが。
近所の香港中華料理店にて。 (2011年7月12日撮影)







































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