おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

11人いる     (20世紀少年 第40回)

 第1巻の第8話「穴を掘る」および第9話「メッセージ」は、ケンヂたちが少年時代に缶を埋めた経緯と、現代になってその缶を掘り起こす話が、交互に語られながら進行する。今回は、前者の子供のころのエピソードについて、まとめて話題にする。

 昔話は172ページ目の、成人映画のポスターから始まる。この種のポスターは実際、昔はそのあたりに普通に貼られていた記憶がある。至る所とまでは言わないが、少なくとも子供の目に触れないようにという配慮は無かったように思う。

 私の場合は、加藤茶が演ずるストリッパーにより、すでにある種のサービス業において、このポスターのような裸を見る行為が何らかの意味を持っているらしいことを知っていたのだが、必ずしも見るだけのものではないことを知ってからは、こういうポスターは目のやり場に困るようになった。


 しかし、すでにケンヂとヨシツネとマルオは、さすが都会っ子だけあって高い関心と咄嗟の行動力を身に付けており、ジジババ店の隣の壁からポスターをかっさらっている。こういう場面にオッチョは似合わない。この3人でなければならない。ついでに、単行本のカバーに描かれている「スペシウム光線の格好」も、やはり、この3人でなければならない。

 ちなみに、このポスターの映画は「脚本 長崎尚志」となっている。長崎さんの名は、単行本の終わりのころになると、この作品のプロットの共同制作者として印刷されるようになっている。あるいは、このような映画に関しても深い造詣をお持ちのかたなのであろうか。

 ちなみに、第8話のタイトルである「穴を掘る」は、例によって私の頼りない記憶によれば、村上春樹のデビュー作「風の歌を聴け」が映画化された際に、原作にはない劇中劇の題名として出てきたような覚えがある。その中身は忘れた。大切なことも、どんどん忘れる。


 彼らの秘密基地がある原っぱは、あるとき突然、彼らのものではなくなった。1970年にはまだ秘密基地はあったが、71年には神様のボーリング場が建ってしまった。漫画では、原っぱが立ち入り禁止になったとき、彼らは長袖の服を着ており、木々が最後の落ち葉を散らせているから、季節は70年の晩秋か。

 ケンヂの発案により少年たちは基地にまつわる記念品などを持ち寄って、缶に埋めることになった。ケンヂの下手な演説が終わるころ、ドンキーも駆けつけてきて、「宇宙人が攻めてきた時、月の前線基地に」立てるために彼が作ってきた、ともだちマークの大きな旗も収納されることになった。缶の蓋にも、ともだちマークが描かれて埋められた。


 このときに集まった子供の数は、190ページ中段の絵、次のページの中段の絵、どちらを見ても11人である。そのうち、はっきりと顔が描かれているのは、ケンヂ、ヨシツネ、マルオ、モンちゃん、コンチ、ドンキーの6人。

 また、前後の関係から、蛙のおもちゃを入れたはずのケロヨンも居ただろう。これで7人。なぜかオッチョとユキジが描かれていないが(おそらくまだ、作品に大人として登場していないからか)、彼らを含めても9人。

 第4巻の最後の頁でケンヂとオッチョは、ともだちの録画を見せつけられた際、「遊びの時間がはじまっちゃうよ。早く9人、揃えないと。」と挑発されている。この9人という人数は、ケンヂたちが書いた「よげんの書」に由来しており、すなわち第5巻64ページ目に出て来る「9人の戦士がたちあがったのです!!」から来ているのに違いあるまい。


 そして戦士がなぜ9人なのかというと、おそらく「よげんの書」のこの部分が書かれた時点で、彼らの仲間が9人だったからだろう。その9人は、先ほどすでに名を挙げた9人と同じであると思う。

 ヤン坊マー坊の度重なる猛襲に耐えながら、ドンキーが旗を運び込み、ヨシツネがそれを守ったこともある。旗を見上げる9人の20世紀少年たちの雄姿は、「21世紀少年」上巻の66ページ目に鮮やかに描かれている。マルオとヨシツネ、ユキジとドンキー、コンチとモンちゃんとケロヨン、オッチョとケンヂ。戦士の顔ぶれは、この9名に相違なかろう。


 ところが、先述のように缶を埋めた儀式の時点では、秘密基地のことを知っていた子供が11人はいたのだ。そのうち上記の9名がその場にいたとしても、2名は誰なのか分からない。少なくとも2人、あるいはそれ以上の子供が基地の「解散式には間に合った」かもしれないものの、「よげんの書」の仲間ではなかったことになる。

 その少年たちは秘密基地の存在を知りながら、あるいはおそらく、「よげんの書」の中身を知りながら、正義の味方にカウントされなかったとは、当事者にとって些細なことではなかったに違いない。



(この稿おわり)



この夏は、残念ながら、入谷の朝顔市は中止になりました。
されどわが家の朝顔は、今年も立派に咲き始めています。


































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