第1巻第3話は、80ページ目で「間もなく世界は終わる」という予言と、「私と共にある皆さんは必ず救われます」という救済の言葉を大観衆に伝える”ともだち”の後姿で終わる。
その会場の建物は、屋根のてっぺんにある烏帽子と、正面入口の上に掛かっている「館道武」と読める額からして、日本武道館で間違いなかろう。ケンヂはもちろん、スパイダーさんよりも早く、ともだちは武道館を一杯にしていたのだ。その次に、第4話の「鼻水タオル」が始まる。この段の主人公は、もはやこの世にいないドンキーだ。
マルオが太った体で走ってくる姿から始まるが、これは前頁の加害者と次頁の被害者をつなげる、タスキがけのリレーのようなものだ。コンビニの商品たるべき店頭の新聞が、またしても情報源と説明資料に使われてしまっているが、これによりケンヂは、クラスメートだった高校教師ドンキーの「自殺」を知る。
そのあとすぐにケンヂの回想場面が始まる。西暦何年のことか書いてないが、子供たちの服装が秘密基地開設のときと同じようなので、1969年の4年生のときのことだろう。季節は夏のようだから、基地ができる前後か。
子供たちの服装について、これまで第1巻に出てきた彼らの上着を見ると、概ね三つのグループに分かれており、ケンヂとマルオとドンキーはランニング・シャツ、ヨシツネとヤン坊マー坊はTシャツ、オッチョとケロヨンは襟つきのちゃんとした半そでシャツを来ている。
だいたい、この順番で後になるほど、親の収入・資産が大きく、子供の身だしなみに関するしつけもしっかりしていたと考えて良かろう。私の場合、実家が小学校4年生ごろまでは特に暮らし向きが厳しかったため、夏はランニングシャツ、冬は半そでの厚手のシャツ、それもほぼ全て、親戚か近所の年上の男の子からお下がりでいただいたものであった。オッチョのように、友達にアイスをおごるお金などなかった。
特に、ドンキーの家は貧しそうだ。木造平屋建て、おそらくは借家、ケンヂの記憶によれば、この家は傾いていたらしい。しかも、貧乏人の子だくさんという諺どおり、兄弟姉妹が9人ほどいる。野球チームが組める。ドンキーの鼻水もおそらく貧しさと無縁ではあるまい。
なぜならば私や彼の少年時代、一般家庭の子は風邪をひいたくらいでは薬を買ってもらえず、まして医者に診てもらうなど考えたこともなかった。家族にもうつるかもしれないから、親だって何とかしたかったはずだと思うが、そんな余裕などなかったのだ。いきおい、鼻水や鼻づまりなど放ったらかしになる。
鼻づまりをあまりに長いこと放置すると慢性化して、副鼻腔炎(いわゆる蓄膿症)になるおそれがある。実際、あのころ鼻たらしの小学生など至るところにいたし、冬場は長袖の縁で鼻をこするため、袖口が銀色に輝いている子も少なくなかった。その点、ドンキーは鼻水タオルを持ち歩いているのだから、それなりにダンディーであると言わねばならない。
第4話の始まり、82ページ目において、ドンキーの自殺報道にショックを受けているマルオとケンヂは、この鼻水タオルに窮地を救われているのだ。彼の死により物語の世界は暗転するのだが、私はドンキーが好きなので第4話から第7話については詳しく書きたい。
(この稿おわり)
わが町、日暮里の名物 「線路の数」 (2011年6月29日撮影)
こちらはお馴染み日本武道館。
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