おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

太陽にほえろ     (20世紀少年 第23回)

 学生時代に、明け方の京都の街を全力で走ったことがある。その日は前夜から先輩宅で徹夜の麻雀をたしなみ、夜が明けて友人宅に寄るため移動したのだが、彼は500の中型に乗っており、私は自転車を盗まれたばかりだったのか、徒歩だったためバイクを追い掛けて走った。

 東山三十六峰が夜明けの空に浮かぶと昔も今も、ようよう白くなりゆく山ぎわ、少し明りて紫だちたる雲の細くたなびきたる。そんな古都の朝を走る迷惑な学生であった。「大丈夫か」と訊かれ、「太陽ほえろの気分だ」と答えたら、友人は珍しく声を立てて笑った。よくまあ若い刑事を走らせたものだな、というのが私の「太陽にほえろ」の印象です。


 第1巻第2話には、第1話で別々に出てきた刑事二人が、見開き2ページだけながら並んで登場する場面がある。それぞれ捜査現場がケンヂのコンビニの近所とあって、両名は同じ警察署に所属しており仲も良いらしい。

 二人の名前(呼び名)と風貌からして、「太陽のほえろ」の渋い脇役だった山さんと長さんがモデルになったに違いない。映画「20世紀少年」では、ゴリさんがチョーさんを演じている。

 TVドラマの二人は、走るのは若手に一任しつつ、地道な調査活動で実績を挙げるタイプであった。漫画でモデルに使うに当たり、片方を悪役にするとしたら、露口茂さんには悪いが、この選択も仕方が無かろうな。下川辰平さんが演じた長さんのイメージを振り切り捨てるのは至難の技だもんね。


 漫画の該当部分は、ヤマさんがチョーさんに、それぞれの担当事件(大学教授一家の失踪と教え子の学生の変死)が相互に関連する可能性を仄めかすシーンである。トイレで「連れション中」の会話ということもあって、何かにおうな、においますね、という落ちがついている。

 第2巻の75ページから76ページにかけて、チョーさんを”絶交”したヤマさんは、電話で「私の不注意な言動から面倒なことに」、あるいは「私が、もっと早く”ともだち”と出会っていれば、こんなことには・・・」などと述べているので、この署内での会話の段階で、ヤマさんはまだ悪の道に迷い込んではいないのかもしれない。



 「太陽にほえろ」には、テレビ・ドラマ史上に残る、立ち小便のシーン(大袈裟か...)がある。ショーケンが演じたマカロニ刑事が刺殺される場面だった。私がテレビで「太陽にほえろ」を観るようになったのは最初からではなく、マカロニ時代の途中からだったと思う。後任のジーパン刑事の作品は、ほぼ全部観たはずだ。


 松田優作の主演映画は、「野獣死すべし」も「家族ゲーム」も「ブラック・レイン」も観ているが、私にとって最も印象深い彼の作品は、やはり「太陽にほえろ」で動かない。派手で乱暴で、悪い奴は容赦なく殴りつける刑事だったが、並大抵の存在感ではなかった。先輩に対しては控えめで、可愛がられていた。高橋恵子の涙も忘れ難い。

 余りに早い死だったが、最近は息子が立派な役者になって、若き日の父を彷彿させる活躍ぶりである。その姿を見るたびに、私はかつてキース・リチャーズがインタビューの中で、ジュリアン・レノンについて語っていた言葉を思い出す。「近ごろはあいつも死んだ親父に似てきてね、見るたびに切なくなるのさ」。



(この稿おわり)



太陽にほえろ」では、新宿の夕焼けが綺麗でした。
写真はミャンマーバガン上空の夕日。2006年3月25日撮影。


































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