おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

Q: そもそも、なぜ今ごろ「20世紀少年」の感想文なのか                               (20世紀少年 第6回)

 
A: 私が時代遅れだからです。

 手元の単行本「20世紀少年」第1巻によると、週刊ビッグコミック・スピリッツ誌上で連載が始まったのは、1999年第44号からとある。私はその前年から、当時の勤務先の駐在員としてカンボジアに長期滞在していたので、長年の浦沢作品のファンでありながら連載開始を知る由もなかった。

 その後、2000年に本帰国したが、まことに多忙な部署に配属されたうえに慣れない中間管理職を仰せつかり、波乱万丈目の毎日で、漫画雑誌も映画も楽しむ余裕などなくしてしまった。


 私は運命論者ではないが、この世にご縁というものがあることも、信じて疑わない。2011年3月下旬、その直前に起きた巨大地震と大津波による未曾有の災害、それに続く原発事故の被害報道のさなか、私は当初の計画どおりとはいえ、東京から脱出するかのように新潟まで温泉旅行に出かけた。

 宿泊先の温泉宿では、震災以降キャンセルが相次いだそうで、私が初めての地震後宿泊客であったらしい。この旅館のロビーの一画に、宿泊者用として置かれていた「20世紀少年」の単行本をふと手に取らずして栃尾又温泉を去っていれば、このブログ・サイトは開設されることもなく終わっていたであろう。

 
 第1巻の冒頭では、前号で触れた第四小学校の場面に続いて、西暦の記載は省かれているが、国連に友民党の幹部が招かれるシーン、次は2015年、艶やかなお姿で寝たり起きたりしているカンナが、巨大ロボットを呆然と眺める姿などが、まるでサブリミナルのように断片的に挿入されている。

 これでは、初めて読む者には何が何だか分からないが、読み手の好奇心と混乱を置き去りにしたまま、物語は先に進んでしまう。19ページからようやく始まる本格的なストーリー展開の時代設定は1997年とあるから、連載時より2年ほど前の日本が舞台になっている。

 どこかでインタビューに応えて浦沢さんは、2000年の血の大みそかで東京に大爆発が起こる設定だったにも拘わらず、2001年9月11日の同時多発テロの発生を受けて、描写を変えざるを得なかったと語ってみえたのを覚えているので、そうであれば連載時、2000年までの物語は過去の出来事として、そして2014年以降は当然ながら未来の出来事として、語られたことになる。


 私がこれを書いている2011年6月の段階で、「2015年に西暦が終わる」という「しんよげんの書」の予言を待ち切れないかのように、日本は地震津波の被害、原発の事故、財政難、少子化、政界の混乱、長期的な不況等々、幾多の試練を同時に抱えて、一体あの国はどうなることか、他国を巻き添えにはしまいかなどと、世界中の注目を浴びている。事実は漫画より奇なりとなるか、いかがでしょうか、神様?


(この稿おわり)

 
栃尾温泉郷 (2011年3月18日撮影)