ここのルール  (20世紀少年 第849回)

 下巻の19ページ目でケンヂの質問攻めにあったお面の少年は、まず「ここのルールがわかってない」ので時期尚早であると話を逸らし、続いて「えらそうに言っちゃってさ。国連軍の手先になってるだけじゃん」と憎まれ口をたたいた。「おまえ...」とつぶやくケンヂは相手がサダキヨではないことに気付いているだろう。

 ところで、”ともだち”が円盤の墜落事故に巻き込まれ(あの事故は関係ない人は巻き込まなかった模様)、ケンヂがヴァーチャル・アトラクション(VA)に入り込んでいるこの時点で、とっくにお前は死にましたということになっているはずだ。蝶野隊長も「遺体」という言葉を使っているから検死も済んでいるのだ。


 当方の理解では、天下のVAも、詮ずるところIT機器である。かつては人工知能という言葉があったが、今や向こうのほうが頭が良いことが歴然としてきたので余り使われなくなった。といっても機械である以上は、誰かが(何かが)入力しなければデータは更新されない。

 国連軍が上陸してきたのは漫画を読む限り、”ともだち”が滅び円盤が全て墜ち、ともだち府をヨシツネやユキジが無血開城させてから後のことだ。ケンヂが国連軍の「手先き」(正確には、志願兵というか代理人であるが)としてVAに入り込んできたのは更にそのあとである。

 
 ではなぜ、この小憎らしい小僧が最新情報を得ているのだろうか。信者がどこかで入力しているというのは、それほど面白くない想像である。それにケンヂの行動は国連軍の機密なのだ。予め新情報が他のサイバースペースから何等かの経路をたどり自動的に伝わるようなシステムが組み込まれていたに違いない。

 VAを廃棄処分にしない限り、”ともだち”は永遠に生きる方法を見つけていたということになる。仮想空間だが、どっちみち地に足の着いた実生活を営んでいたのではなかったから似たようなものである。すり替わった”ともだち”がVAを自由自在に操っていたのは過去見てきたとおりだ。


 ちなみに、あえて漫画を離れ作者の意図を察しようとすれば、万丈目の「思念」がVA内をさすらっているのは、この”ともだち”小僧の幽霊が登場する序曲というか予告編というか、VAは過去の編集ばかりではなく現在の現実世界で死んだ者の仮想人格のようなものが入り込み、混濁する世界でもあるということの前触れのようなものか。


 ナショナルキッドに「やんなきゃいけないこと他にあるんじゃないの? ケーンヂくーん」と言われて、ケンヂはひどく驚いている。このあとでもっと驚くのだが、先を急がず考えてみれば、サダキヨではないナショナルキッドがいるという想定は事前にしていただろうから、そっちが見つかってもビックリ仰天するほどではない。

 ただし、いきなり「ここのルール」などと言われても、ケンヂでも誰でもすぐ理解できるものではない。だが、他にやんなきゃいけないことがあるだろうというのは、ケンヂにしてみれば心の中を見透かされたようなものだ。国連の用件とは別の「決着」を相手が求めてきたということだ。


 ここのルールの「ここ」とはVAだが、細かいことを言えば今ケンヂとナショナルキッドがいるこのステージのことである。そして「ルール」とは多分、先になすべきことをやってからでなければ、知りたいことは教えてもらえないというような決まりであろう。VAの支配者のルールだからケンヂも付き合わないといけない。

 血の大みそかの夜、別れ際にケンヂはカンナに対して、人には一生に一度、どうしてもやらなきゃいけない時があると教え聞かせた。ところが彼の場合、一度では済まなかったのである。当時は”ともだち”が複数いることを知らなかったもんね。


 サングラスの下の目を剥いて「おまえは...」と絶句するケンヂに、少年はもう一度からかうように「ケーンヂーくーん」と声をかけたあとで、いきなりお面を自ら外した。かつて死の大みそかの夜に、相手の素顔がフクベエだったと知ったときもケンヂは驚愕しているのだが、今回はその比ではなく腰を抜かしている。

 お面の下はノッペラボウであった。顔無し。そいつは右の手のひらでサヨナラの合図を送り、「バハハーイ」「キャキャキャ」と読者にも正体がわかりやすい捨て台詞を残して走り去った。ケンヂが流す汗は暑さによるものではあるまい。またも本当の幽霊を見たのであった。



(この稿おわり)





本文とは全く関係がないのですが、上野の不忍池にはウミネコがたくさんいると我が家の新聞に書いてあった。本当だろうか。複数のカモメ類がいるのは間違いないが、一番数が多いのはユリカモメである。
(2014年1月19日、不忍池にて撮影)







 Everybody wants to rule the world.
           
                by Tears for Fears





















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